令和3年に事務所則が改正され、男女別の就業人数ごとに決められていたトイレ設置基準に、初めて男女の区別がない独立個室型トイレの扱いが盛り込まれました。(事務所則第17条、安衛則第828条)それによると、独立個室型トイレ1個の設置につき、男女別トイレ設置基準の就業人数からそれぞれ10人減らすことが可能となりました。コンプライアンスが広がりをみせています。
又、バリアフリー法(建築物関係)が令和2年に改正され、令和3年4月から高齢者障害者等用施設等の適正な利用の推進が、国・地方公共団体・国民・施設設置管理者の責務となりました。加えて、2020年パラリンピックを機に「心のバリアフリー」への取組み、即ち様々な心身の特性や考え方を持つ全ての人が、相互に理解を深めようとコミュニケーションを取り、支え合うこと(ユニバーサルデザイン2020行動計画)の推進、そして建築物移動等円滑化誘導基準の改正も令和4年10月1日施行と、環境整備は時代の要請により変化を続けています。
近年、ダイバーシティ関連の取組みが多くの企業で始まったこともあり、障がい者やLBGTQ+、オストメイト(ストーマ)等、利用者にとってバリアフリートイレの設置意義・役割は大きいものです。ただ、バリアフリートイレを設置したいと考えるも、貸しビル内に居を構える事業所や、設置スペースや改装費の問題(配管改修費がネック)で、各フロアにこういったトイレを設置することが難しい場合も多いようです。特に、古いビルに複数の事業所や店舗が入っているところなどでは、ビル内に1か所の設置すら困難という場合や、和式トイレの数の方が洋式より多い事業所も散見します。
トイレの改修の際、改正事務所則を満たしたトイレ数を確保しても、結局ランチ後の歯磨きや化粧直しでトイレが込み合う等の問題が生じるので、「改正前の男女別トイレ数を減らさないで欲しい」「女性用私物が置ける棚も欲しいし、将来的にも男女別トイレは維持して欲しい」という、女性社員からの要望や、工場のつなぎ作業服の社員からは「和式トイレを無くさないで」という声も聞きます。又、発達障害の方の中には、大きなトイレで同時に沢山の人が利用する場合にストレスを感じるという人もおられます。
他には、手術後や糖尿病のインスリン投与等…、各人の疾病管理の為に、職場のトイレを様々な理由で利用される方もおられ、近年は、男性トイレにサニタリーボックスを置く動きも加速しています。前立腺がんや膀胱がん等の疾病で尿漏れパッドや大人用おむつを着用している方の存在が認識され、更に高齢者雇用や両立支援の動きも加わり、企業や社会がそれを受け入れやすくなったこともあるのでしょう。逆にトイレを清掃する立場の方から、手拭きペーパー用のゴミ箱にこれらが廃棄されていて、分別処理の手間や費用、利用者マナーの向上に関する意見を聴くこともあります。
先日、「商業施設の女性トイレを女装した男性が利用している」と通報があり、性自認は女性だが、通院歴や性同一性障害の診断書がなかった当該利用者が書類送検されたようです。後の報道で、「職場では仮面をかぶって男性の恰好をしている、トランスジェンダー」だと確認されたそうで、ジェンダー問題に詳しい中京大学 風間孝教授が、「性自認にあったトイレを使いたいという思いと、女性の不安が衝突した出来事だ」と、コメントしておられました。
盗撮目的で女性トイレや女性更衣室に入る事件が起きていることや、マイノリティーへの理解と配慮を進めようとする社会の動きと連動し、大学やデパート、大型商業施設でALL GENDERを表す「A」表記、誰でも利用できるトイレの設置も増えつつあります。
トイレは社員全員が毎日必ず利用する場所で、勤務先で安心して使えるトイレが近くにあるのは大事な事です。社員が率直に意見を出せる場や仕組みがあるのが望ましく、安全衛生委員会等を活用し、具体的且つ、実効的な対策を話し合った結果、トイレとは別に歯磨きルームや更衣室・多目的室の設置、非接触の扉や水道・ゴミ箱など・・・改善事例も増えています。
トイレに留まらず、快適なオフィスは労働生産性の向上に繋がり、採用時には応募者にも魅力的に映ることでしょう。空調や視環境など含め、全員が満足する環境整備は難しいでしょうが、オフィスの中に好きな場所、居心地の良い場所が一か所でもあり、そこで深呼吸すれば気分が変わることもあるのではないでしょうか。そんなちょっとした時間と余裕を持てたら・・・・・・と、思います。
理事 久保 とし子