渋沢栄一さんの玄孫である、渋澤健さんが主宰する「論語と算盤経営塾」に参加させていただき、一年間をかけて「論語と算盤」を読み解いています。
渋澤健さんは、コモンズ投信株式会社の会長であり、経済産業省健康投資ワーキングの委員として、健康経営の推進も担っていただいています。
さて、「と」の力とは何かということですが、これは論語「と」算盤の「と」のことです。
渋澤健さんは、
「論語と算盤では、『と』の力がとても大切で、一見すると矛盾しているようなもの同士を組み合わせることによって、そこにある条件が整うと、それまで考えつかなかったような新しいものを生み出す力になることを、当時の渋沢栄一は気づいていたのです」 と教えてくれました。
実際に、『論語と算盤』の第一章の「処世と信条」は、「論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いもの」という項目から始まります。 そして渋沢栄一さんは、 「(論語と算盤は)甚だ不釣り合いで、大変に懸隔したものであるけれど、私は不断にこの算盤は論語によってできている。 論語はまた算盤によって本当の富が活動されるものである。 (中略)正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。ここにおいて論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめることが、今日の緊要の務めと自分は考えているのである。」 と述べています。
実は、健康経営にも、健康「と」経営の間に、見えない「と」があって、隠れた力を発揮しています。
企業の価値創造や競争力は、新しくて、よりよいものをつくるイノベーションであり、その改革の原動力は、全て「人」の意識や信念、そして知識から生まれます。
この時、大切なことは、健康「か」経営という二項対立ではなく、健康「と」経営を組み合わせることで新しい価値を生み出そうとする新しい戦略の視点です。
さらに、このコロナ禍において、従業員の健康と企業の経営が、社会の影響を強く受けることが明らかになりました。国は、国民の健康「か」経済活動のどちらを優先するのかに迷い、企業も、従業員と顧客の健康「か」経営のどちらを優先するのか、判断に苦しみました。
まだまだ未解決のテーマではありますが、今までの常識が通用しなくなってきた現代社会だからこそ、国は「健康と経済活動」を、企業は「健康と経営」を、「と」の力で解決できるよう、一層に大きな期待をもって支援していきたいと思います。
理事・樋口 毅