『沼る、ハマる、沼にハマる』
近年のスポーツ界では大リーグ・大谷翔平選手の話題が多いのですが、今年に関しては、その通訳の方がギャンブル依存症であったことで注目を集めています。大谷選手に常に寄り添う通訳であり、その愛くるしい笑顔や人柄からメディアに好意的に取り上げられていた時期もありました。そんな人がギャンブルをする、そして依存症になり、嘘を積み重ね、素晴らしい立場を失ってしまうという悲劇が生じています。
「依存症」といえばアルコールや違法薬物を摂取し、それがやめられなくなる状態(物質依存)を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし最近では、日本へのカジノ導入議論からギャンブル依存症や、若い人たちに増えているインターネットやゲーム、スマホ、SNS依存症などの記事も増えています。
これらの中には正式な病名ではなくメディアが煽っているものもありますが、いずれにせよ、依存症の一つのかたちとして、特定の行為や過程に必要以上に熱中し、のめりこんでしまう症状(プロセス依存)に注目が集まっており、身近に関係する行為は増えているようです。
プロセス依存は気合と根性でやめられると言う人もいますが、そんなに簡単ではありません。何かに夢中になることを最近は“沼る”“ハマる”“沼にハマる”などと言います。最近はそれに対象となるものをつけて、アニメにハマることを“アニメ沼”とも表現するようです。沼(ぬま)、本来の意味は泥深い自然の池ですが、間違って足を踏み入れるとズブズブと沈んでいき、出ようとしても泥が絡まって出られずに溺れてしまうこともあります。
沼はあがいても出られず、より深みにハマるもののようです。
私はこれまで摂食障害(主に痩せた女性)の診療に携わってきましたが、よくあるダイエットも実は“ハマる”ことが多いのです。同様にワーカホリック(Workaholic仕事中毒)にも注意が必要です。仕事をすることで評価され、さらに仕事のめり込みます。健康状態や残業で嘘の申告をしてまで仕事をやりすぎ、時には過労死などに至ってしまいます。何気ない行動でもその頻度や程度が過ぎると依存症と同じような状態となり、病気としての対応が必要になります。我々の日々の行動の積み重ねが時に健康に影響を及ぼすことを理解し、沼にハマらないように心がけることが必要です。
2024年4月
理事 井上 幸紀
本コラムを執筆いたしました理事の井上が主催する第21回日本うつ病学会を大阪国際交流センターで2024年7月12日(金)・13日(土)に開催されます。13日午後には理事長の岡田も登壇し、「働き方改革と健康経営」(メンタルヘルスの視点から)をテーマにした市民公開講座を開催いたします。ご興味のある方はご参加ください。
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