かつて産業医は有害業務の作業管理や作業環境管理を行い、職業病に対する健康診断の受診を促し、企業の診療所で診察を主たる業務としていることが多かったように思います。勿論今でもこれらの仕事の重要性には変わりがないのですが、サービス業の急速な進展による産業構造の変化、工場の海外移転、大不況に伴うリストラなどの社会情勢の変遷に伴い、産業医の業務も大きく変わってきました。現場の有害物質を一日中調べていた私も、今では産業医業務の多くをメンタルヘルスに係る面談や企業のリスクマネジメントとしての取り組みに費やしています。数年前まではメンタルと過重労働の関連がクローズアップされていましたが、リーマンショック後、残業は減少したにも拘らず、従来のメンタル関連疾患とはその趣が異なるメンタルヘルス不調も増加している傾向にあります。
活動の拠点を大阪に置き、専業嘱託産業医・労働衛生コンサルタントとして仕事を行っている私は、大学医学部の非常勤講師として、医学生の実習などの教育にも携わり、産業医の仕事の面白さと難しさを伝えています。大半は医師=臨床医のイメージを抱いている学生には勿論、一般の方にも独立系産業医とも言われる専業嘱託産業医は日本ではまだ数も少なく認知度も低いのですが、その業務範囲は広く、又、契約企業の多くは常勤産業医や常勤産業医療職がいるような予算や人・産業保健の基盤に恵まれた企業でないこともしばしばです。しかし、そんな企業が抱えている問題事例は大企業同様であり、時にはそれ以上に対応に苦慮する場合もあります。産業医としての本来の業務を十分に行えないジレンマを抱えつつも、少しでも産業保健がその企業に根付き、企業の資本である社員の皆様の健康と安全・安心を守る仕事をしたいと願っています。ただ、最近は組織の風土・基盤形成に全く着手せず、表面的なリスクマネジメントのみの視点で過重労働面談とメンタルヘルス対策だけを依頼されることもあり、本質的なものが忘れられているように感じることもあります。企業の財産である人を人財ととらえ、経営者や産業医は共に真摯に考え、互いに協力する必要があります。企業に経営理念があるように産業保健にも理念があることを忘れずにいたいものです。
人類の半数が女性で、働く女性の数は年々増加傾向にあるにも拘らずまだまだ就労女性を取り巻く環境は依然として厳しい現実があります。中断しがちな傾向にあるキャリア形成に悩み、また科学的とは言いがたい諺や風習・文化に囚われて子育てと仕事の両立に悩む女性が多い中、快適で、働きやすい、心身共に健康で、安心して子育てができる職場環境と社会環境を育むことは今後も課題であり続けるといえるでしょう。一緒に語り、共に考えて下さる方、悩んでいる方、行動したい方…皆様の参加をお待ちしております。